アジア対抗戦「Asia Invitational 2019」優勝選手が語る、マレーシアの『ストV』事情
2020.03.13
2019年9月。東京ゲームショウ2019内のドコモブースにて行われた『ストリートファイターV アーケードエディション』のアジア対抗戦「STREET FIGHTER V: Asia Invitational 2019」。香港・マレーシア・韓国・シンガポールの代表が3人1組のチーム戦で争ったこの大会にて、見事優勝を飾ったのがマレーシアの選手たちだ。
今回は、そのマレーシア代表選手からKofmaster選手、H-Tail選手の2名と話す機会を得た。彼らが普段暮らしているマレーシアにおいて成長段階にあるeスポーツ。その中で『ストリートファイターV(以下、ストV)』はどのような立ち位置にあるのだろうか。なかなか日本へは情報が入ってこないマレーシアの『ストV』事情について、様々な話を伺った。
――今日はよろしくお願いいたします。早速ですがマレーシアではどういったところで対戦をしたり練習をしたりするのでしょうか。
Kofmaster:マレーシアの南部に住んでいて、他のプレイヤーが集まる中心部から離れているので、オンラインで主に練習しています。主にロードが早いといった理由からPC版でプレイをしています。
H-Tail:中心部に住んでいるので、週に1回、格ゲーコミュニティが集まるところに行って練習をしています。
Kofmaster:羨ましいですね(笑)。
H-Tail選手(左)、Kofmaster選手(右)
――ゲームセンターはマレーシアにはあまりない?
Kofmaster:昔はたくさんあったんですが、コンソールやPCの人気が出てからは全然見なくなりました。昔は格ゲーも置いてありましたが、最近ではほとんど見なくなってしまいました。
H-Tail:いつもコミュニティで集まるときは「GEEK Empire」というゲームショップのようなところを利用しています。格ゲー以外も含め、eスポーツタイトルではないものもみんなで集まってプレイしています。
――ゲームセンターが減り、今はどのようなタイトルが人気なのでしょうか。
H-Tail:モバイルが人気で、そこから多くのユーザーがPCに行きます。戻ってくることはありません。そういうルートで行くので、コンソール(家庭用ゲーム機)に触れる機会がないというプレイヤーが多くなってしまいます。
Kofmaster:アーケードというプレイコミュニティがあったのが、往年の格ゲー人気を跳ねさせたんじゃないかと思っています。小さい頃から格ゲーをやりたくてゲーセンに住んでいるんじゃないかというぐらい入り浸っていました。今もその熱意で格ゲーをプレイしていすし、格ゲー以外はほとんどプレイしません。
H-Tail:格ゲーは比較的敷居が高いものとしてマレーシアのコミュニティでも見られています。コマンド入力やフレーム判定などが難しいものとして見られています。
――格ゲーの参入障壁を感じているようですね。マレーシアでは、eスポーツはどう見られているのでしょうか。
H-Tail:マレーシアの政府がeスポーツへのサポートを始めていて、一部タイトルの選手なんかは安定した収入を得ているとよく聞きます。ただ、その国でポピュラーであるかどうかは重要で、格ゲーは発展途中な印象を受けます。
Kofmaster:政府からお金も出始めて、スポンサーの数も増えてきて良くなる未来は見えてきているので、成長の段階だと思います。大会運営者やスポンサーからしてみれば、何人が見ていて何人が参加したのかというところが気になっています。直近では政府公認のeスポーツ大会があって、「STREET FIGHTER V: ASIA Invitational 2019」で優勝したものの、マレーシア国内の人気は他タイトルが強く、翌年の政府公認大会の採用タイトルはそのタイトルが対象種目となりました。
――では『ストV』のお話もしていきたいと思います。おふたりはどのキャラを使っていますか?また、新しく使いたいキャラやコスチュームがありましたら教えて下さい。
Kofmaster:基本的には視覚的に混乱してしまうので、デフォルトのコスチュームでやります。ただ、好きなコスチュームとしては、メナトのフェリシア風アレンジコスチューム*¹が非常に好きです。ここだけの話、カジュアルマッチではそれでやっています(笑)。
H-Tail:僕もそれ好きだよ!(笑) シーズン2や3あたりにジュリに浮気しようかなと思いましたが、ずっとかりんメインのままです。先日発売された『ストリートファイターⅤ:チャンピオンエディション』でこれまでのコスチュームがたくさん解放されるので、ポイズンとジュリは使いたいと思っています。あえて付け足すとしたら、春麗のコスチュームがめちゃくちゃ多くないですか?それぞれのキャラクターに7つぐらいアレコスがあればいいなと思っています。
――昨年12月に「VスキルII」が実装されて環境がかなり変わりましたが、もう慣れましたか?
Kofmaster:今のバージョンが好きです。シーズン3までは相性の悪いキャラ同士だと完封されてしまう状況が多かった中、今シーズンはバランス調整と「VスキルII」の実装で、相性の悪いキャラ同士でも太刀打ちないしは、場合によっては勝てる場合が増えてきて、バランスが非常に取れていると思います。
H-Tail:今回のバランス調整はタイミングが非常に良かったと思います。CAPCOM Pro Tour 2020(以下CPT)が始まる前ということもあり、選手も十分に適応する時間がとれており、バランスも非常によく、大会やストリーミングをしている選手の放送を見れば一目瞭然なんですが、全然違うキャラを見られるようになりました。
――シーズン4の最後にセスが追加されましたが、所感としてはいかがでしょう。
Kofmaster:私見ですが、セスはおそらく最強キャラ候補でしょう。まだ動画で見てる限りですが、コンボや技のセットも優秀で、丹田インストールで相手のキャラの攻撃を奪えます。それによって攻め方やコンボの繋ぎ方など、ゲームプレイに新しい次元がひとつ加わったように思います。使うのが非常に楽しみです。
H-Tail:その性能故に、かつてプレイしていた選手が復帰しているのを見て嬉しいですし、戻ってくるプレイヤーは多くいるんじゃないかと思います。ただ、自分のこだわり上、女性キャラしか使わないので、セスは使えませんが、多くのプレイヤーが使ってくれるのを楽しみにしています。女性のキャラクターボイスをつけてくれたらプレイしたいですね。衣装もかわいいのをつけてくれれば嬉しいです(笑)
――格ゲーがメインストリームではない中、お二人はどういったところから『ストリートファイター』をプレイするようになったのでしょうか。また、どのような練習を普段されていますか?
Kofmaster:本当に小さい頃「PlayStation」が家にあったんです。それを使って親戚たちが『ストリートファイター』プレイしていたのを見て「面白そうだな」と。軽く遊んでみたらハマってしまって。当時はアーケードがあったので、そのままゲームセンターでプレイしていました。勝ち負けよりもコンボを相手に当てれば満足というレベルでしたね。
練習は『ストV』が発売した時は少なくても6時間、多くて8時間はプレイしていました。楽しいから、研究したいという思いからですね。基礎はそこで培ったので、シーズン2以降は常に『ストV』のことを考えるようにし、このコンボは相手に当たるか、成立するかと考えて、それを実践するのに1~2時間プレイするという形に移行しました。今でもそれは続けています。
H-Tail:シーズン1は熱意を持ってプレイしていましたが、何をすれば良いかわからなくて、続いても1~2時間程度でした。シーズン1の中期にマレーシアのコミュニティ大会があって、それにエントリーしてズタボロにはされましたが、コミュニティの人と繋がって指導を受けて、教わったことを実践するようになりました。最近ではKofmasterさんと一緒にやることが増えたので、コンボなどのポイントを練習していて、1日あたり30分~1時間ぐらいプレイしています。マレーシアは選手層が薄いので、オンラインでマッチングをしても何回も同じ人と当たることがよく当たります。それ故に使用キャラやプレイの癖などの幅が狭いため、間違っていたとしても、どう直せばいいかわからないということもあります。
Kofmaster:日本の配信を見ていると本当に羨ましいと思います。sako選手の配信を見ていても、10秒ぐらいで強いプレイヤーとすぐにマッチングして、常に新しいことを試せるのは良いことだと思います。
――おふたりは一緒に練習するのでしょうか。
H-tail:プレイ自体はしますが、練習ではないですね。
Kofmaster:練習となるとお互いのことを知りすぎているので、練習にならないんです。大会をやっていても同じ20人、でやっている状態が非常に多いので、他のプロ選手がやっているようなキャラ対策をしてもあまり意味がなく、自己鍛錬をしています。
――昨年9月、東京ゲームショウのドコモブースで行われた「STREET FIGHTER V: Asia Invitational 2019」に招待という形で参加、優勝されましたね。その後エキシビションとして日本チームと対戦しましたが、感想はいかがですか?
H-Tail:正直、調子に乗ったことを言うと、BO1、いわゆる1先だったためイケるんじゃないかと思っていたところはありました。しかし、現実は厳しく、日本チームを崩すことはできませんでした。ただ、あの大会自体が普段プレイできないような選手とプレイできたというのもあり、学びの面では非常に大きかったです。
Kofmaster:香港・韓国戦の時点から勝つのは難しいと思っていました。接戦をなんとかくぐり抜けて勝ち抜いた時は信じられなくて、未だに夢だったんじゃないかと思っています。2先や3先のフォーマットは如実に実力が出ますが、1先は何が起こるかわからないというのが面白みであり *²、そこが自分たちに有利に働いたと思っています。勝てるかどうかはわからなく、おそらく負けるだろうという気持ちは日本戦でもあって、予想通りコテンパンにやられましたが、尊敬できる選手3人で構成されていて、彼らと戦えたのは非常に光栄ですし、手合わせしてみてわかるのが、全くの別次元のスキルなんですよね。自分たちは直前まで試合をしていましたが、彼らは控室で試合をしていたわけではない。それでも、完全に整っている状態で出てきます。とても勉強になりました。
――今シーズンもCPTが控えています、そこに対しての意気込みを教えて下さい。
Kofmaster:最大の夢の1つが決勝大会である「CAPCOM CUP」に出場することです。今年のフォーマットは各国からのエントリーも楽になっていて、僕のように旅をなかなかできないような選手にもチャンスがあるので、気合い充分です。
H-Tail:基本的にはCPTは雲の上の出来事というか、あまり関係がないと思っていましたが、今年はまずはマレーシア周辺の数カ国で頑張ってみようかなと思っています。
――「Intel World Open」がありますが、こちらはどうでしょう。
Kofmaster:「Intel World Open」のような非常に規模の大きい大会に出るということは、普段eスポーツを見ない人や興味のない人の目にも触れるということで、『ストリートファイター』がもっとメジャーになってほしいし、多くの人の目の触れてほしいと思います。ASIA Invitationalの経験ですが、各国代表制のフォーマットは非常に惹きが強く、興味のない友人からも「お前これに出てるの!?見るよ!」と言われるほどです。なので、「Intel World Open」も頑張りたいと思います。
H-Tail:「Intel World Open」はKofmasterさんも言ったとおり、史上最大の大会になると思っています。オリンピックオフィシャルパートナーのIntelが主催するというのもあり、それに出たくないプレイヤーはいないでしょうし、コミュニティも参加者数も視聴者数も間違いなく大きく増える大事な大会です。
――「STREET FIGHTER V: ASIA Invitational 2019」ではチーム戦という形でプレイされましたが、格ゲーは通常個人の大会です。チーム戦の良い点や悪い点を教えてください。
Kofmaster:チーム戦のフォーマットは大好きです。従来の格ゲーは1vs1ということで、自分vs相手で完結してしまうところを、長所も短所もチームメンバーと共有して高めあえるという点が、学びもあって良いと思います。国を背負っているプレッシャーから来る気合の入り方もありますし、そういった点でもこのフォーマットは好みです。
H-Tail:僕もチーム戦のフォーマットは好きです。チームメンバーからサポートがあるため、自分1人の戦いではないという点が特に好きです。個人であれば負けても「あ、負けたな」というぐらいの気持ちでも、チーム戦であれば「ここで負けたらチームメンバーも敗退してしまう」というところから気合が入ります。チームからの鼓舞は非常に高いパフォーマンスが出せます。チーム戦で好きではないところとしては、自分が100点のパフォーマンスを出しても、チームメンバーの調子が悪ければ、チームとしては敗退してしまう点です。
――今「ストリートファイターリーグ」が日本と北米で行われていますが、マレーシアや東南アジア圏で開催されたら出場したいですか。
H-Tail:是非出場したいです。国を代表するチャンスでもありますし、アジア最高峰の選手と手合わせできるチャンスでもあるので、出場しない理由はありません。加えて選手としての活躍の場としてアジア版があるのであれば嬉しいし、そこでの活躍をスポンサーが見てくれて、スポンサードをしてくれるというような場があったら嬉しいです。
Kofmaster:出場したいです。アジア圏の選手のレベルが非常に高いので物怖じするところはありますが、大好きなフォーマットですし、自身の成長に繋がるので、出場できるのであればしたいです。
――では最後に、カプコンのeスポーツに今後期待する点や要望を教えてください。
Kofmaster:常に選手の声には耳を傾けてほしいと思います。選手が声を上げるのには理由があるので、そういったところには真摯に応えていってほしいです。
H-Tail:日本で行われたルーキーズキャラバンといったような初心者向け大会が非常に羨ましいです。一度限りの大会でも、誰もが参加できる大会があればコミュニティが育つでしょうし、日本で行われているような、エントリーレベルからハイレベル、プロといった明確な道が各国に1つずつでもあれば嬉しいです。そうすれば埋もれている才能も掘り出せるんじゃないかと思います。
注釈
*¹追加コスチューム「フェリシア」:メナト
*²Asia Invitational対戦ルール
・対戦モード VERSUS MODE
・対戦時間 99秒
・対戦ラウンド 3ラウンド
・試合方式 BO1(星取り戦⇒残ったメンバーで勝ち抜き戦)
・進行
①両チームの先鋒、中堅、大将で星取り戦を実施
②両チームの勝ち残ったメンバーで勝ち抜き戦を実施(全滅すればこの時点で試合終了)
③先に全滅したチームが敗北、1名でも残ったチームが勝利
■ストリートファイターVについて
「ストリートファイター」シリーズは、1987年に業務用ゲーム機として第1作目を発売後、1991年発売の『ストリートファイターII』において大ヒットを記録しました。革新的な対戦システムが話題を呼び、家庭用ゲームソフトでは全世界でシリーズ累計 4,400万本(2019年12月末日時点)の出荷を誇るなど、対戦格闘ゲームというジャンルを確立。登場から 30年経た今なお世界中で人気を博しておりeスポーツにおける格闘ゲーム分野を牽引するタイトルとなっています。「ストリートファイター」シリーズ史上初の「PlayStation®4」ユーザーと PC ユーザーが対戦できる「クロスプラットフォーム」プレイの導入を実現しております。
最新作は2020年2月14日発売の「ストリートファイターⅤ チャンピオンエディション」(PS4/PC)になります。
http://www.capcom.co.jp/sfv/ ©CAPCOM U.S.A., INC. ALL RIGHTS RESERVED.
■ “CAPCOM Pro Tour”について
CAPCOM Media Ventures, Inc.が管理する“CAPCOM Pro Tour”とは、プレミア大会、ランキング大会など、1年を通して世界各国で行われる『ストリートファイターV チャンピオンエディション』大会群の総称です。2020年11月に行われる“CAPCOM CUP 2020”にて、年間の総合優勝者が決定されます。
■株式会社カプコンについて
1983年の創業以来、ゲームエンタ-テインメント分野において数多くのヒット商品を創出するリーディングカンパニー。代表作として、「バイオハザード」、「モンスターハンター」、「ストリートファイター」、「ロックマン」、「デビル メイ クライ」などのシリーズタイトルを保有しています。
本社は大阪にあり、米国、イギリス、ドイツ、フランス、香港および台湾に海外子会社があります。
http://www.capcom.co.jp/