バリアフリーなeスポーツ
2023.09.26
eスポーツは、通常のスポーツに比べると、性別や人種・年齢に関係なく、より幅広い方々がプレイできるスポーツです。回線と機器さえあればどこでもできるという性質上、専門の方の介助を受けながら、様々な障がいを持った方が、各々の安心できる環境でプレイすることもできます。そんなeスポーツが、さらなる「バリアフリー」となるためにはどうなっていくべきか。現状とこれからについて見ていきたいと思います。
「Any%CAFE」は、自閉症やパニック障がい等をお持ちのプレイヤーが、スタッフの配慮を受けながら安心してeスポーツをプレイできる施設です。
施設HP:https://any-percent-cafe.studio.site/
eスポーツの平等性を最大化させる、新たな一歩となるでしょう。このような取り組みは「バリアフリーなスポーツとしてのeスポーツ」が伝播するきっかけとして大きい要因ですが、さらなる普及には、やはりユニバーサルデザインなゲームの存在も必要不可欠です。例えば「クラッシュ・ロワイヤル」。こちらは、持ち札を駆使し、相手のタワーを倒せば勝ちというシンプルなゲームで、視覚と指一本あれば戦える操作性となっています。その他、「ハースストーン」「Shadowverse」といったカードゲーム系のタイトルも同様であることが多いです。
パブリッシャーの努力だけでなく、デバイスの工夫でカバーできる場合も大いにあります。両手を使用しなければならない格闘ゲームやMOBA(「League of Legends」に代表される、複数人のチームで敵の本拠地の破壊を目指して戦うストラテジーゲーム)、FPS・TPSといったシューティングゲームにおいて、手や筋肉、関節に障がいがありつつも、健常者と互角に渡りあっている選手も数多くいるのです。彼らは、自身の障がいに応じてカスタマイズされた特別なコントローラーを使用します。例えば、頬の筋肉でコマンドを入力したり、足でキャラクターを移動させたり、、というような形です。他のスポーツと比べ、キーが入力されれば操作が可能なeスポーツの場合では、必ずしも同じ部位を使わなければならないという枷はありません。これも、eスポーツがバリアフリーとされる所以の一つと言えるでしょう。
このように、現状のeスポーツは、ゲームの操作性・デバイスを通じて平等性に配慮されたものが多いことがわかります。では、視覚・聴覚障がいの方の場合では、どうでしょうか。
”「一番見るのはヒカキン」と話す盲学校の生徒たち YouTubeやゲームが大好きな彼らはどうやって「見る」のか”
出典:https://www.newsweekjapan.jp/stories/culture/2021/07/youtube-5_1.php
盲学校の”生徒たちに「ふだんは何をして遊んでいますか」と聞くと、「ゲーム」「対戦ゲーム」という答えが返ってくる。” 生徒たちがよくプレイしているのは「ドラゴンボール」や「ワンピース」、「ストリートファイターⅡ」などであった。”『ストリートファイターII』は左右に配置されたキャラクター同士が戦う、2Dタイプの格闘ゲームである。戦闘中にキャラクター同士が入れ違い、左右逆になることもある。”
”比較的初期のバージョンでは、キャラクターごとの効果音はモノラルで、右に配置されたキャラクターの音は右からだけ、左に配置されたキャラクターの音は左からだけ聞こえるようになっていた。それであれば彼らは、キャラクターが左右入れ替わったときにもすぐに聞き分けることができる。”
”しかしバージョンが上がっていくと、音響が健常者目線でリッチになり、両方のキャラクターの音が左右から同時に聞こえてくるステレオフォニックな作りになっていく。そうなると生徒たちには、モノラルだったときには判断できた、音によるキャラクターの位置関係の判別ができなくなってしまうのだという。”
ゲームでは視覚情報が多くなってしまいますが、盲目のプレイヤーにとっては「音」のみが情報源となります。しかしながら、もちろんすべてのゲームがというわけではありませんが、上記の例のように、ゲーム技術が発展した現代の方が情報源としての音作りがなされていない場合もあるのです。(最新のストリートファイターVでは配慮され、全盲のプレイヤーがプロを倒すといった事例もあります。)逆に現代の3D系のゲームでは、ステレオの技術を用いて、ゲーム内空間のどの辺りに敵がいるかを音で判別できるようになっているものも数多くあります。盲目のプレイヤーが活躍するゲームタイトルが増えていく中で、健常者目線でのリッチさを求めてしまうことは、それだけで他タイトルと差をつけてしまうことになります。
対して、聴覚に障がいがある方にとっては別な問題が発生します。上記で紹介した「MOBA」のようなチーム対抗戦の場合は、複数人でコミュニケーションをしながらプレイしますので、そこで大きな壁が生まれてしまうのです。FPS・TPSの場合も同様です。それに加えて、足音や銃声が聞こえないことも大きなハンデとなってしまいます。もし、足音や銃声が画面上に視覚情報として表示されたら、それは、バリアフリーなゲームに一歩近づくかもしれません。
先述の通り、eスポーツは、通常のスポーツに比べるとより幅広い方々がプレイできるスポーツです。そのため、SDGsの文脈で語られることも多く、様々な団体や企業が障がい者×eスポーツという文脈での取り組みを始めております。また、障がい者のeスポーツ大会「ePARA」も開催されており、障がい者eスポーツ市場も徐々に活気を見せ始めています。
今後、タイトルや環境の整備により、「ePARA」から徐々に「パラ」という垣根がなくなり、どんなタイトルでも健常者・障がい者が同じ土俵で戦えるような世の中になったら、それはまさしく「バリアフリーなスポーツ」の誕生であり、かつ、それが私たちの目指す未来かもしれません。